昨今、非常に注目度の高い美容トレンド「フェムテック」
女性は、ライフステージによって「生理・月経」「妊活・妊よう性」「妊娠期・産後」「プレ更年期・更年期」などの様々な課題があると言われていますが、それを改善する研究を「フェムテック」と呼び、実際に日常でケアに用いる商品を「フェムケア」商品と呼んでいます。
一昔前に比べるとトラブルを感じる年齢の若年化や状況の複雑化などが指摘されていますが、日本という社会性・文化性の背景もあり、問題に適切に対処できておらず、フェムテックのマーケットはまだまだ始まったばかりと言えます。
そんな中、女性のための「膣美容」に着目して、膣の菌バランスを正常化し、潤いをもたらす商品『raciné』を開発した日本事業開発株式会社。
今回の取材では、代表の叶さんと、会社のアドバイザーであり助産師である池田さんに、商品開発の経緯や現在のフェムテックを取り巻く状況、またこれからの性教育のあり方についてお話をお聴きしました。
SOGI( Sexcial Orientation and Gender Identity )という、当団体名にも掲げられている言葉は、ともするとセクシャルマイノリティにだけ関係しているような印象を受けますが、私たちは性別やその他の背景を問わず、本当の意味で多様性を重んじる社会の実現のために女性の抱える問題も積極的に取り上げていきたいと考えております。
– 「raciné」開発の経緯について教えてください。
(叶さん)元々大手化粧品メーカーで美容の研究に携わっていました。現在の会社でも化粧品開発のコンサル業を行い、ずっと美に向き合う仕事をしてきました。その中で、表面からのケアだけでなく「インナーからのケア」の可能性に強く興味をもつようになりました。内側が整うことが、なによりの美容法であり、今後健康的に人生を過ごすため大切にするべきことだと思っています。そこで「美容面」「健康面」の双方を実現する膣美容液「raciné」の開発に至りました。
– 商品開発にあたり苦労されたことなどをお聞かせください。
(叶さん)膣美容液という概念は、日本にまだないものでした。海外ではドラッグストアに売り場があったりとマーケットが存在していて、認知もされています。ですが、日本では馴染みのないものですし、直接身体に取り入れるものなので、クリーンルームで製造したく、そのような対応をしてくれる生産工場を見つけるのも一苦労でしたね。
– なぜ今「フェムテック」が注目されているのでしょうか?
(池田さん)およそ25年前は、50代の悩みであった膣内の乾燥や、おりもののかゆみや性交痛などが、今や10代20代の若い世代でも比較的よく見られる悩みになっています。これは日本人の生活習慣や食習慣の変化が大きく関わっていると言われていますが、そういった背景もあって、フェムテックがトレンドになっているのではないでしょうか。
– 「教育」の観点でもフェムケアは重要だと感じました。学校では概念的「性教育」は行われていますが、日常生活でトラブルがあると、どうしたら良いのか悩んでしまう方も多そうですよね。
(池田さん)日本の性教育ではフェムケアまで踏み込んだ話はできていないですね。正直、実際のケアなどを教えていたら、学校のカリキュラムの問題などもあって負担が増大してしまい、現場が混乱してしまうと思います。また、私自身、学校へ性についての講義に出向いたりということがありますが、学校側が生徒たちに過保護になるあまり、特定のワードを使わないようにと言われたりと制約があります。そうすると、本当に大事な部分を正しく伝えられなかったりジレンマに陥ってしまいますね。
– 確かに身体の成長の過程や避妊啓蒙も重要ですが、自分の身体を愛することや、どうやって人は愛し合っていくのかをしっかり教える必要があるのかもしれないですね。
(叶さん)「raciné」の販売だけでなく、学校の教育だけでは教えきれない、実際の部分を啓蒙していけたらと思います。現在は、商品販売と並行して、医師と一緒に企業向けや一般の方向けのセミナーを展開して、女性の身体の仕組みや向き合い方をお伝えする活動を続けています。
– 啓蒙という観点でいくと、男性こそフェムケアを理解すべきだと感じましたね。
(叶さん)実はフェムテックは、科学的で論理的な分野なので、データを用いて系統立ててお話すると、男性がすんなり理解してくれるというケースが多いように感じています。最近は理解のある男性も増えて、弊社のお客様の男性が「女性の身体を知らないと本当の意味で幸せにできない」と話してくれて、とても印象的でしたね。
(池田さん)夫が産婦人科医なのですが、結婚当初は一般的な医師として、医療の力での支援を前提として、出産と向き合っていたようでした。ですが、私が自宅出産をするにあたり、女性の潜在能力の素晴らしさや凄さを目の当たりにして、医療のあり方を考え直すきっかけになったと言っていました。
– 池田さんのような体験がある一方で、出生率の低下が問題視されていて、妊娠・出産・子育てといったことが遠くなってしまったと感じますが、どうでしょうか?
(池田さん)少子化の時代になって、周囲で子どもを産む人が減ってしまったので、物理的に接する機会は減りましたよね。以前、(彼氏もいないのに)結婚はしたくないけど子どもは欲しいと言っていた女性がいたのが印象的でした。これはある種、現代社会の刷り込みもあるのかもしれませんが、愛する人同士が愛を育んで子どもをつくっていくという過程が、ごく自然なことなのに、そこを飛ばしてしまっているんですね。話を聞いてみると、色んな情報に触れるあまり、年齢や卵子の状態などを過度に気にしてしまって、プレッシャーからそのように考えてしまっていたようですね。
– 性生活や身体に関わる商品には、踏み込みにくい、試しにくいというイメージがありますが、どのようにそれを捉えていらっしゃいますか?
(叶さん)今はフェムテックにまつわる商品が増えていて、これまでに無かった新しい商品も多いので、確かに抵抗がある方もいらっしゃいます。ですが、人生100年時代と言われる現在、美しく健康に生き続けられるかはとても重要な課題です。
そのために「恥ずかしい、抵抗がある、怖い」と言っている場合ではなく、自分の状態と真剣に向き合い、こういった商品を取り入れていくことも1つの選択肢だと思うのです。
最近ではAIの発達が取り沙汰されますが、ある意味で人間は知性の追求においてコンピュータには及ばないところがあるわけで、そうなると身体性の追求、つまり自分の身体と向き合って理解を深めて、ケアしていくことが、より良く生きることに繋がると考えています。そのきっかけが「raciné」であったらなと。
弊社の商品は、ぜひ使って頂きたいです!お客様が、わざわざPOPUPに「痛かった婦人科検診が痛くなくなった、ホルモン治療をやめられた」と言いに来てくれたり「日に日に肌の潤いが蘇るのを感じます」と問い合わせフォームに感想を送ってくれたりと、商品の社会的意義を感じる日々です。
– お話をお聞きすると、単にケア商品というというだけではなく、女性を内面から美しく元気にするような可能性を感じますね。
(池田さん)自分で膣に美容液を使うという行為が、間接的に自分と向き合う行動になっているので、それが心理的にも相乗効果になっているのではないかと思います。そして、実際に見た目や感覚が変わってくればより嬉しいと思いますね。
日本の家庭では、性の話を遠ざける風潮がありますが、ヨーロッパではお母さんが子供にフェムケアを教える習慣があって、その中で女性の尊厳を身につけるようなベースがあるように思います。
– 当団体の関わるところのSOGIというのは、ダイバーシティ&インクルージョンに内包されるものですが、女性のライフスタイルの多様化もその一つだと思います。それらが受け入れられ、日常となっていくには何が必要だとお考えですか?
(叶さん)弊社が関わることでいうと、フェムテック業界の盛り上がりをきっかけに、人々が身体や性について正しく学び、そして身体や性ついて普通に話せるようになるといいと思います。深いところまで話していくことで、互いの違い・多様性に気づき、受け入れることができると思います。弊社はそのきっかけをご提供できればと、教育・啓蒙活動を続けています。
(池田さん)実は、私は家族環境が少し特殊なんです。関係は非常に良好ですが、上二人の子供が独立して、下二人と主人が一緒に暮らしていて、私は一人暮らし。でも楽しく過ごしているんですよ。一昔前では否定されていたような暮らし方でも、今の時代は相互理解があれば実現できるし、私自身の事例からも、やっぱりちゃんと深いところでコミュニケーションを取っていくことが大切なのかなと思いますね。
性別という意味では「男性」か「女性」の2通りしかないわけですが、私たちは自分の身体のことも相手の身体のことも、知らないことが本当に多いと改めて感じました。そんな中で、より複雑な「心」のあり方を議論している昨今。身近な話題として話すことで相互理解が深まることがたくさんあると思います。フェムテックは、閉塞的な日本の性の考え方を変えていくようなきっかけになり得るのか、今後の動きに注目していきたいと思います。