しーまやさんインタビュー(前編)

LGBT理解増進法の施行以降、企業や自治体をはじめとして、当事者の生きづらさや働きづらさを解消するような取り組みが活発化しています。一方で「性自認」を悪用して女性のスペースを脅かすような犯罪も起き始め、当事者に対する誤った理解や社会との分断を助長するような流れがあることも事実だと言えるでしょう。この法律制定時のそもそもの意義は、当事者への理解を増進することにあったはずです。私は、望ましい形で当事者への理解が進んでいないことを強く危惧しています。そんな中、我々 SOGI JAPAN は、当事者への理解を深めるきっかけのひとつとして、トランスジェンダー女性の「高橋真矢さん(以降、しーまやさん)」に取材をさせて頂くことになりました。彼女の生い立ちや考え方を知ることで、本当の意味での当事者の理解増進へ繋がれば幸いです。

-しーまやさんの自己紹介とこれまでについて、お聞かせください。

生まれは神奈川ですが、父の田舎へ帰省中、福島の病院で生まれました。高校まで神奈川で育って、今は東京で暮らしています。

私は、身体が男性で性自認は女性のトランスジェンダーです。心と身体の性が一致していない状態なので、そこを一致させたい、つまり性別適合手術を受けたりホルモン注射をしたいのですが、後にご説明する持病の関係でそれが叶わず、今は自分で気持ちのバランスを取りながら生活しています。

これまでの経歴としては、高校卒業後に自衛隊入隊して、3年くらい在籍していました。その後はトラック運転手やタクシー運転手を経て、現在はフリーランスでITエンジニアをしています。ITエンジニア歴は20年くらいになります。

小中学生時代、複数の男子生徒から苛烈ないじめを受けていて、高校時代には見知らぬ男性から性暴力被害に遭いました。それがきっかけで、男性、特に男性の集団に対する恐怖と嫌悪感は未だに払拭できていません。

実は、自衛隊除隊後、3回結婚と離婚経験して、子どもは3人います。

そして、46歳で自己破産も経験しました。

-かなり目を引くご経歴・ご経験をお持ちですね。ご自身の性自認に違和感を感じたのはいつ頃からですか?

なんとなく変だなと感じたのは小学生の頃からですね。当時は、いじめが原因で男子生徒が怖くて近づけませんでした。一方で、女子生徒からはいじめられたことがなくて、むしろ集団で助けてくれたので、自然と女子生徒と一緒にいることが増えて。

男子生徒といる時間がとにかく恐怖で、不思議と女子といると安心感があったのです。そのうち次第に女子への敬意が芽生えて、同じコミュニティに入りたい、女子の中に混ざりたいと思うようになっていきました。それがトランスジェンダーになっていく最初のきっかけだったように思えます。

現在、性対象は女性、性自認は女性です。診断の結果、中身は女性だと言われています。言うなれば、限りなくレズビアンに近いのでしょう。身体が男で生まれてきただけという認識です。

日本人はカテゴライズしがちですが、そこにさほど意味はないと思います。カテゴライズしたいのは、帰属意識と安心感を得たい人たちなのかなと。

-男性に対する嫌悪感を持ちながら自衛隊に入隊されたというのは、一見すると矛盾を感じますが、どういった理由なのでしょうか?

確かに男性に対する抵抗感はその当時もあったのですが、中学生頃から「自衛官」という職業に強い憧れがあったのです。

入隊当時は平成4年ですので、今でこそ女性初の空挺隊員や護衛艦艦長などいらっしゃいますが、当時はまだまだ男性の色が非常に強い職場でした。ただ、その時は自衛官になりたいという思いの方が強く、男性とか女性とかそういった視点では入隊を考えていませんでした。

とはいえ、入隊はしたいものの、やはり男性が多い場所は難しいと考えて、女性自衛官の多い通信科を希望して入隊しました。入隊してからわかったのは、比較的男性と対等に渡り合う様な女性が多いということで、ある意味で私よりも男性的な面を持つ女性自衛官も多かったので、私が女性自衛官に頼る場面も幾度かありました。

-入隊されて、3年で退職されていますが、入隊後に理想と現実のギャップのようなものがあったのでしょうか?

それはありました。最初の半年の教育期間はとても良くて、自分の理想に近い自衛官の生活でした。ただ、一般部隊に配属されてからは、機材の整備・清掃をして、午後3時にマラソンに行って一日が終わるという事が多かったのです。たまにある程度の規模の演習はありましたが、実戦とはかけ離れた演習内容や、さほど緊迫感が無い日常生活に疑問を感じていました。

私は昇進の早い候補生で入隊したので、ある程度将来が約束されてはいました。ですが、たまに飲みに出て外の人と話すと、価値観とか情報量の違いがとても大きかったのです。このまま定年まで在職して一般社会に出た場合、そこから一般社会に適応しなければならない事を考えると、長年いることがどうなのかと思い始めました。結局、柵の中だけの生活や知識だけで良いのか?他の知識を吸収するのがこのままでは難しいなという気持ちは消えることがなく、退職に至りました。

実は在隊中に女性自衛官と交際していた時期もありました。最初は女友達のようなノリだったのですが、自然な流れで交際に発展しました。

-自衛隊という職場は、男性的価値観が強くて排他的なイメージがあるのですが、ご自身の特性上、実際は嫌な思いなどされませんでしたか?

いつも女性隊員といる事が多く、同期から冷やかされたこともありましたが、苦痛だと感じることはありませんでした。

自衛隊の雰囲気や文化は配属部隊や駐屯地によるものが大きいのです。例えば、自衛官=角刈りのイメージがあると思いますが、通信科は角刈りとは無縁で比較的長髪でも問題ありませんでした。

一方で、第一線の戦闘部隊、例えば習志野第一空挺団などは、ある意味で相当な男性社会ですから、駐屯地へ支援業務などで訪れると、髪型だったり女性自衛官が多いという理由で、白い目で見られることはありましたね。

-先ほど、自衛隊時代の恋愛のお話がありました。これまで恋人・婚姻関係にあった女性からはどのように理解されていたと思いますか?

大前提として、相手の本心はわかりません。ただ、私の場合は「女友達が増えたみたいで楽しい、面白い」とよく言われました。

結婚していた当時は、今ほど多目的トイレがありませんでした。商業施設など、女子トイレにも男子トイレにも入るのに抵抗があって…… そこを、当時の妻が先に女子トイレに入って確認してくれて、中に誰もいない事を確認した上で手招きしてくれたりしました。

これまでの離婚理由については、私がトランスジェンダーであることが原因ではありませんでした。心身のことを話してからも性生活もありましたし、トランスジェンダーだから性生活がないわけではないです。その辺りは、みなさんの想像とは随分違いがあるかもしれません。

今思えば、元妻や元恋人は、私を男とか女で見ていなかったのではないかと思います。

-しーまやさんの心身についての話に戻りたいと思います。将来的に手術は希望されていないとのことですが、なぜでしょうか?

しないのではなく「できない」というのが実際のところです。実は私は双極性障害を患っていて、今は安定しているのですが、医師からホルモン注射やSRS(性別適合手術)を行うことで、メンタルバランスに異常をきたし、日常生活に相当な影響が出る可能性が非常に高いと言われています。望む身体と性別があっても、私には日常生活を送ることが1番大切なことなので、手術は諦めています。ただ、豊胸手術については心身への負担がほとんどないので、そこだけはいつかやりたいと思っています。もし持病による制限がなければ、SRSはしていたと思います。

ここまでのしーまやさんのお話で、トランスジェンダーとひとことに言っても、様々な方がいるということがお分かりになったのではないでしょうか。トランスジェンダーは生まれつきのものだという先入観がありますが、しーまやさんのように後天的に変わっていく方もいらっしゃいます。自衛隊への入隊、持病が理由でSRSを受けられないなど、これらの話も一般的に認識されているトランスジェンダー(の中でも以下で説明する性別違和に当たる)の状況とは大きく違うと思います。後半の取材では、昨今のトランスジェンダーを取り巻く問題など、しーまやさんご自身の考え方についてお聞きします。

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